ブログ

2020/07/03

 

契約者変更と「生命保険の支払調書」

 

1.保険金の支払いがなければ大丈夫?


「保険金の支払いはないので、相続税の申告はいりませんよね?」

生保営業マンの方からのお問合せです。

契約者・保険料負担者:父
被保険者:母
保険金受取人:子

このような契約内容で父が死亡。
被保険者は母であるため
保険金の支払いはありません。

死亡保険金はみなし相続財産ですが
今回は
その死亡保険金の支払いがないのです。

一見すると
相続税の申告は必要ないように見えます。

しかし、税務署は
父が保険料を負担している点に着目します。

 

2.目に見えない「生命保険契約に関する権利」


税務署はこう考えます。

¨父の次に契約者となる者は
それまで父が支払ってきた保険料部分の
「権利」を引き継ぐ¨

そして
このような「権利」に着目して
相続税をかけることにしています。

これを

「生命保険契約に関する権利」

といいます。

しかし
保険金を受け取るわけではないため、
財産を引き継いだことに気づきにくい。

「お金を受け取っていないから、相続税申告の必要はないのでは?」

前述の営業マンの方もそう考えたのでしょう。
目に見えない財産だけに申告漏れが多くなります。

 

また
父の死亡直前に母に名義変更したとしましょう。

契約者・保険料負担者:父→
被保険者:母
保険金受取人:子

外見上は母の相続財産です。
父の相続財産でないように見えます。

しかし、本来は
父死亡時に「生命保険契約に関する権利」
として相続税の対象となる財産です。

もし母が
父の相続財産として申告しなれば
母はその財産を無税で引き継ぐことが
できてしまいます。

 

実は…。

以前は税務署もこのような申告漏れを
把握しきれずにいました。

税務署も
名義変更がいつだったのか
誰がいくら保険料を負担したかを
知るすべがありませんでした。

結果的に
申告しなくても問題にならないケースが
多かったのです。

しかし
そのような申告漏れを防ぐため
平成30年1月1日以降、
契約者の死亡に伴い契約者が変更される場合には
税務署がその情報を入手できるようになりました。

保険会社に
新たな「支払調書」
の提出が義務付けられたのです。

 

3.「支払調書」ってなに?


「支払調書」とは
事業者が特定の支払いをした場合に
税務署へ提出しなければならない書類です。

税務署は
支払調書と実際の申告内容を照らし合わせます。

支払いを受けた者が
きちんと申告しているかどうかを確認するのです。

保険会社においては
保険金や解約返戻金を支払ったときに
税務署に「支払調書」を提出しなければ
ならないことになっています。

この「支払調書」を

「生命保険金・共済金受取人別支払調書」

といいます。

これにより、税務署は
死亡保険金の申告漏れをチェックしています。

そして、平成30年1月1日以降は、
死亡に伴う契約者変更についても
支払調書の提出が義務付けられたというわけです。

この支払調書を

「保険契約者等の異動に関する調書」

といいます。

また
死亡を伴わない契約者変更を把握するため
従来の
「生命保険金・共済金受取人別支払調書」
新たな記載事項が義務付けられました。

 

4.支払調書で何がわかる?


「保険契約者等の異動に関する調書」

には

①新たな契約者の住所・氏名
②死亡した契約者の住所・氏名
③解約返戻金相当額
④すでに支払われた保険料の総額
⑤死亡した契約者の払込保険料

などが記載されます。

これにより、新たな契約者が
「生命保険契約に関する権利」
をきちんと申告しているかどうかがわかります。

また、従来の

「生命保険金・共済金受取人別支払調書」

には

①保険金支払時の契約者の直前の契約者の住所・氏名
②契約者変更の回数
③保険金支払時の契約者の払込保険料

の記載が義務付けられました。

これにより、以前の契約者の死亡時に
「生命保険契約に関する権利」
をきちんと申告していたかどうかがわかります。

いずれも
「生命保険契約に関する権利」
がきちんと申告されているかどうか、一目瞭然です。

申告漏れにより修正申告となった場合には
延滞税や過少申告加算税といったペナルティが
課されることになります。

 

5.まとめ


死亡保険金の支払いがないからと言って
相続税の対象にならないとは限りません。

また
契約者変更で外見上の保険料負担者を変更しても
課税を逃れることはできません。

亡くなった方が保険料を負担している場合には
「生命保険契約に関する権利」
の計上漏れがないか注意しましょう。

 

税理士 藤原由親