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2020/10/02

 

生前贈与による相続税対策の事例

「生前贈与」虎の巻③

1.生前贈与の「技術」


前回は
効率的な生前贈与の考え方について
お話ししました。

生前贈与は「技術」です。

考え方さえわかれば
後は実務に落とし込むだけです。

という訳で
今回は応用編として
私が実務で経験した事例をご紹介します。

 

2.残念な生前贈与


先日
ある金融機関からのご紹介で
税務相談に来られた方がいらっしゃいました。

73歳の男性で、財産総額は5憶円。
かなりお持ちです。
そのほとんどが預貯金等の金融資産とのこと。

奥様はすでに亡くなられています。
相続人は42歳の長男さんお一人でした。

一通り財産内容と相続人の状況を確認したあと
その男性はこのようにおっしゃいました。

男性:
「○○銀行さんが是非にということで相談に来たのですが
実は私は10年前から相続税対策をしているのです。」

私:
「なるほど、そうなのですね。」
「どんな対策をされているのですか?」

男性:
「10年前から毎年、
一人息子に100万円の生前贈与をしています。」

私:「・・・。」

「う~む。」
私は心の中でうなっていました。

この方はおそらく
贈与税の110万円の非課税ワクを念頭に
生前贈与をしたのでしょう。

ご自分で調べたのか
どなたかかからのアドバイスなのか。

私はとても残念な気持ちになりました。

10年前、この方の年齢は63歳です。
そして、財産は5億円。

100万円の生前贈与であれば
確かに毎年の贈与税はかかりません。

でも、財産は5億円あるのです。

近年のデータでは
63歳男性の平均余命は20年程度です。

100万円の生前贈与を20年間続けても
減る財産額は2,000万円。

一般的な平均寿命から考えて
とてもじゃないですが、間に合いません。

そしてポイントはもう一つ。
相続人は一人だということです。

前回のお話しを思い出してください。

相続税の計算をする場合
一旦、機械的に財産の総額を
各人の相続分で分けます。

そして
分けた金額に対して税率をかけます。

算出された税額の合計が相続税の総額です。

相続税は
財産の総額を各人の相続分で分けたあとの金額が
多ければ多いほど税率が高くなります。

逆に言えば
分けたあとの金額が少なければ税率は低くなります。

そして計算上
相続人が多ければ多いほど
分けたあとの金額は少なくなります。

つまり
相続人が多ければ多いほど
相続税の総額は安くなるのです。

では今回のケース。

相続人は長男さんお一人なのです。
よって長男さんの相続分は「1(=1/1)」。

相続人が一人であるため
財産総額を各人の相続分で分けることができません。

したがって
相続税率は高くなってしまうのです。

具体的には財産のうち
税率50%で課税される部分が1億円以上出てきます。

 

3.効率的な生前贈与


以上の状況を踏まえ
私は年間1,000万円程度の生前贈与をお勧めしました。

1,000万円の生前贈与をした場合の
贈与税は177万円です。

税負担の割合は
177万円 ÷ 1,000万円 = 17.7%

この1,000万円を相続まで残してしまえば
相続税の税率は50%。税額は500万円です。

1,000万円の生前贈与を1年間するだけでも

500万円 - 177万円 = 323万円

のトクになります。

73歳男性の平均余命は13年程度。
もし生前贈与を10年間続けることができれば

323万円 × 10年 = 3,230万円

のトクです。

今回のケースでは贈与税を払ってでも
生前贈与をしておいた方が
トータルの税金が減るのです。

今後
年間100万円の生前贈与を
10年した場合と

年間1,000万円の生前贈与を
10年した場合。

比較表がこちらです。



2つのケースを比較した場合
実に2,730万円の差が出ます。

確かに
年間100万円の生前贈与でも税金は減ります。

今回のケースでは
10年間で500万円税金が減ります。

しかし
年間1,000万円の生前贈与を
10年間した場合の節税額は3,230万円。

同じ額の節税をしようとすれば
60年以上かかることになります。

男性の年齢を考えればとても効率的とは言えません。

 

4.生前贈与の判断手順


では、今までのお話を踏まえ
どうすれば効率的な生前贈与ができるのか?

判断手順はいたってインプルです。

①「財産の規模」と「相続人の数」を確認



②「相続税の税率」を確認



③「相続税の税率」より低い税率で生前贈与

これだけです。

拍子抜けかも知れませんが
実際に私がやっていることはこれだけです。

あとはご本人のご意向や年齢、健康状態により

・何年間、生前贈与ができそうなのか
・生前贈与の対象となる親族は何人か
・ご本人の生活費がどれほど必要か

を確認し、実行するだけです。

 

5.生前贈与による相続税対策


いかがでしたでしょうか?
3回にわたり、「生前贈与」虎の巻
お送りしました。

3回分の内容を理解していただければ
生前贈与の基礎的な知識としては十分です。

もし、内容についての不明点や
実務に当たってアドバイスが必要な場合は
お気軽にご連絡ください。

皆さまのお役に立てれば幸いです。

今回も最後までお読みいただき、
ありがとうございました!

 

税理士 藤原由親